『異邦人』カミュ 訳:窪田啓作
とても大事なことが書いてあったような気がするのだけど、読み終わったときにもたぶんもう覚えていなかったし、それからまたずいぶん時間が経ってしまったので、それを探す意欲もなくなってしまいました。
でも、とてもいい小説でした。
「いい」というのは、清清しくも、切なくも、美しくも、感動的でも、共鳴できるわけでも、涙がこぼれるわけでも、興奮するというわけでもなく、あるいは、そのすべてがあるという意味での「いい」です。
絶望を乗り越えた先にある幸福を望むのではなく、絶望の彼岸にある幸福という場所から絶望をひっそりと眺めているような。
寒気のする熱度。そういう「いい」は、どんな小説にもあるものではない、特別なものだと思う。